• 『忘れられた傘の会』豊島清子著

『忘れられた傘の会』豊島清子著

978-4-89982-326-1

1,320円(内税)

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『忘れられた傘の会』
豊島清子
46判 216頁



齢九十をこえた著者の第一作品集
ファンタジックなものがたり


旅する傘たち

親思いの鬼

お手伝いする子豚

天翔る龍の子

月の夜の晩にアーマンうごめく……

〈七十歳から書き始めたという初々しさが心に響きます。人間界と動物界がとけあう神話的世界が、時にはほのぼのと、時には切実に描かれて、味わい深い読後感がありました〉

ファンタジー 童話 昔話 奇妙な味。バラエティにとんだ作品たち。

あなたも「忘れられた傘の会」と一緒に旅にでませんか!

「忘れられた傘の会」より

 行列は目の前に来た。前の傘に続いて、何と、赤や青や紫や白など、色とりどりの雨傘や日傘たちがやってきた。

 キタダは道路に飛び出した。そして、並んで来た傘たちに、

「おはよう」

 とあいさつをした。

「傘さんたちよ、一体どこへお出かけだか?」

「旅行じゃわい」

 と、先頭の黒い傘が言った。

「旅行じゃとか。その大きなのぼりは、旅行会社のものを借りてきたとか?」

「違うわい。忘れられた傘の会ののぼりじゃ」

 キタダと傘の問答を聞いていたキザタじいさんも、つかつか歩いてきて言った。

「何じゃと? 忘れられた傘の会じゃと?」

「そうじゃよ。おら、昭和の終わり頃の寒い日に生まれたんじゃが、主人の旅行中に電車に忘れられてのう。それからずうっと、この町の駅の忘れ物置き場に、置き去りにされたんじゃ。退屈じゃったよ。それで後から入ってきた傘たちと話し合ってなあ、忘れられた傘の会をつくったのじゃ。そこで考えたのが旅行じゃ。旅行をしながら、我々を忘れた主人を探して主人の所へ帰ろうというわけじゃよ。こっそり忘れ物置き場から抜け出してきたんじゃ。心がカラッとしていい気持ちじゃあ」





●目次
サーカ峠
キツネ狩り
忘れられた傘の会
かげろう美人   
南国幻想 ヤドカリ
 
子豚のヤンチャ
デイゴ森の動物たち
マーペー悲話
ホタル

姫王の子守唄
ハヤテ

 詩二編
    秋 冬 そして春
    皆既日食 吾が少女期の思い出  
   
    あとがき  

著者略歴
豊島清子〈トヨシマキヨコ〉
1923年(大正12年)生。
多良間島出身。
石垣島在住。