『忘れられた傘の会』
豊島清子
46判 216頁
齢九十をこえた著者の第一作品集
ファンタジックなものがたり
旅する傘たち
親思いの鬼
お手伝いする子豚
天翔る龍の子
月の夜の晩にアーマンうごめく……
〈七十歳から書き始めたという初々しさが心に響きます。人間界と動物界がとけあう神話的世界が、時にはほのぼのと、時には切実に描かれて、味わい深い読後感がありました〉
ファンタジー 童話 昔話 奇妙な味。バラエティにとんだ作品たち。
あなたも「忘れられた傘の会」と一緒に旅にでませんか!
「忘れられた傘の会」より
行列は目の前に来た。前の傘に続いて、何と、赤や青や紫や白など、色とりどりの雨傘や日傘たちがやってきた。
キタダは道路に飛び出した。そして、並んで来た傘たちに、
「おはよう」
とあいさつをした。
「傘さんたちよ、一体どこへお出かけだか?」
「旅行じゃわい」
と、先頭の黒い傘が言った。
「旅行じゃとか。その大きなのぼりは、旅行会社のものを借りてきたとか?」
「違うわい。忘れられた傘の会ののぼりじゃ」
キタダと傘の問答を聞いていたキザタじいさんも、つかつか歩いてきて言った。
「何じゃと? 忘れられた傘の会じゃと?」
「そうじゃよ。おら、昭和の終わり頃の寒い日に生まれたんじゃが、主人の旅行中に電車に忘れられてのう。それからずうっと、この町の駅の忘れ物置き場に、置き去りにされたんじゃ。退屈じゃったよ。それで後から入ってきた傘たちと話し合ってなあ、忘れられた傘の会をつくったのじゃ。そこで考えたのが旅行じゃ。旅行をしながら、我々を忘れた主人を探して主人の所へ帰ろうというわけじゃよ。こっそり忘れ物置き場から抜け出してきたんじゃ。心がカラッとしていい気持ちじゃあ」
●目次
サーカ峠
キツネ狩り
忘れられた傘の会
かげろう美人
南国幻想 ヤドカリ
子豚のヤンチャ
デイゴ森の動物たち
マーペー悲話
ホタル
姫王の子守唄
ハヤテ
詩二編
秋 冬 そして春
皆既日食 吾が少女期の思い出
あとがき
著者略歴
豊島清子〈トヨシマキヨコ〉
1923年(大正12年)生。
多良間島出身。
石垣島在住。