芭蕉布 普久原恒勇が語る沖縄・島の音と光
磯田健一郎編著 A5変形判 160頁
戦後沖縄最大の作曲家、初の語りおろし
「ローカルの根を掘り進んでいくと、いつか広々とした普遍の広野にたどり着く。それを実行した人々の感動的な記録。この人たちによって、沖縄音楽は、いまや世界音楽の空間の、重要な要石となった」
中沢新一(人類学者 多摩美術大学芸術人類学研究所所長)
近代沖縄音楽の祖・普久原朝喜の息子である普久原恒勇は、沖縄音楽専門のインディペンデント・レーベルとして80年の長きに渡って『嘉手苅林昌特集』などの沖縄音楽の決定的名盤をリリースし続ける名門・マルフクレコードの名プロデューサーであり、同時に「沖縄の国歌」とすら呼ばれる《芭蕉布》をはじめ、《遊び仲風》《豊年音頭》《島々清しゃ》《肝がなさ節》などすでに沖縄のスタンダード・ナンバーとなった数々の沖縄民謡の傑作を残した作曲家でもあります。
その創作活動は民謡の範疇を脱し、クラシック、ポップ、カントリーの素養をも活かした独自の沖縄歌謡・ポップス・唱歌をも生んで70年代以後の沖縄音楽の隆盛を準備し、さらには民族楽器による器楽合奏という前人未到の分野をも生み出しました。本土で言えば、成田為三や山田耕筰、古賀政男らの仕事をひとりで担った人物と言っても過言ではありません。また匿名で演奏してきたため一般には知られておりませんが、沖縄屈指の三線奏者でもあるのです。
このように戦後沖縄音楽史における最重要人物のひとりである普久原恒勇ですが、「スタッフサイドの人間は表に出るべきではない」との信念のもと、長くロング・インタビューや、業績を整理した単行本などの企画を拒否してきました。このためにその人となりを知る資料はほとんどなく、このため沖縄音楽史の空白地帯となり、生きたまま伝説となっておりました。
このたび、七十代も後半になってようやくロング・インタビューとその単行本化を承諾。自己史、沖縄観、音楽観、歌い手たちとの交流、さらには「音楽家よりも写真家になりたかった」と語るカメラを通しての沖縄への愛情までをも、初めて語りおろしたものが本書です。冒頭グラビアページでは沖縄の自然と風土を愛する普久原の写真家としての作品を収録。ことばだけではなくその視線からも表現者・普久原の全貌に迫ります。
インタビュアー・編著者はかつて普久原の民族楽器管弦楽『史曲〈尚円〉』や、伝説的名歌手・嘉手苅林昌と普久原の最後のセッション・アルバムをプロデュースした音楽プロデューサー・磯田健一郎。
【目次】
● カラーグラビア 8P 撮影:普久原恒勇 沖縄の自然と風土を中心に
●序 透明なるものへ
● はじめに
●第一章 録るひと 〜プロデューサー・作曲家 普久原恒勇
1 【少年時代】
2 【大阪時代】
3 【帰沖後】
4 【制作活動へ】
5 【作曲活動へ】
●第二章 撮るひと 〜フォトグラファー 普久原恒勇
1 【少年時代 〜父のカメラを持つ子ども〜】
2 【大阪時代 〜島へ向かうレンズ〜】
3 【帰沖後 〜沖縄の美とともに〜】
4 【敬愛するカメラマンたち】
●第三章 音楽とひと
1 【歌い手と】
2 【アレンジャー、バンドマンと】
●第四章 音楽を語る
1 【西洋の音、沖縄の音】
2 【自作を巡って 〜歌の系譜〜】
3 【自作を巡って 〜器楽の系譜〜】
●結び 揺らぎゆくものへ
●あとがき
● 普久原恒勇 略年譜
■発行:2009年7月31日