3月末発売開始。予約受付中。
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●A5判ソフトカバー 144ページ
●定価2200円(本体2000円+税)
●加藤久子著
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沖縄・宮古の池間と佐良浜の写真とともによみがえる祭祀の数々
宮古島市にある池間島の池間、伊良部島の佐良浜では年間に数多くの祭祀が行われる。佐良浜はもともと池間の分村として誕生し、祭祀を共有し、宮古島の西原と併せて「池間民族」とも称される。
その池間のユークイ(1985年)、動物供儀(1988年)、佐良浜のカーニガイ、ムズビューイウサギ(1993年)の祭祀を取材し、その写真と共に祭祀の様子を紹介。
糸満の漁業に携わる女性や浦添市小湾の字誌に関わり、多くの女性を取材研究してきた著者が現代の祭祀の役割とつながりを考える。
法政大学沖縄文化研究所[監修]叢書・沖縄を知る
●本書「序章 よみがえる祭祀」より抜粋
(前略)
夜籠りをする麦の豊作と感謝の祭祀
引き続き三か月後の一九九三年旧暦四月二七日から二八日(新暦の六月一六日から一七日)の二日間、夜籠りのある「ムズビューイウサギ」(麦の収穫と感謝願い)を体験した。二週間の小湾調査を控えて、佐良浜を先行する日程を組んでいた。
ユーグムイ(夜籠り)をするモトムラのウフンマヤー(大母宅)へ直行する。顔なじみなったツカサンマたちは、あたたかく迎えてくださるが、張り詰めた空気に圧倒される。部屋いっぱいにンマダリ(麦の神酒)が、ナナソジャラ(小皿)五八枚と、ウフジャラ(大皿)、ナカジャラ(中皿)に盛りつけられ、深夜の祭祀は最高潮に達する。
カカランマ(神歌を歌い神がかりする神役)が、両の手を合わせると、神々と対話するという佐良浜独自の「オヨシ」を歌い出す。すぐ目の前のカカランマの顔に苦痛のような、法悦とも思える表情が表われると、その声は高く、低く、つぶやきに変わり、体が左右に揺れ出す。「カカランマのオンステージ」と例えられるこれが憑依の様子なのだろうか。約二時間カカランマのオヨシは続いた。
夜籠りが明けたら、ナナムイと各拝所での願いを滞りなくすませ、ウムクトゥマサイ(知恵の勝り)を得て祭祀は終了する。神酒の甕と供え物のすべてが両ムラのウフンマ宅に届けられ、祭祀に関わったすべての人に神様からの贈り物として分配され、集落中が豊穣に満たされる。祭祀は終了し、私は宮古空港へ急ぎ、浦添市小湾の仕事場での聞き取りの数日を過ごしたのであった。
池間と佐良浜の祭祀をとおして、神願いによる島人の精神的再生力と地域共同体の紐帯に注目していきたいと思う。
●目次
序 章 よみがえる祭祀
創立五〇周年の写真展—池間と佐良浜/カツオ漁とカツオ節加工の女性労働/女たちの手漕ぎの舟で豊穣の海へ/池間の祭祀を継承する佐良浜へ/夜籠りをする麦の豊作と感謝の祭祀
第1章 移住政策による分村と祭祀の共有
強制移住と池間民族/宮古・八重山の税制と過重労働/定額人頭配賦税制(村位・人位・年齢制)/年貢反布と士族・平民/宮古漁民に課せられた海産物の貢納/開墾と新村の創立/御嶽の分祀と新たな墓の建立/池間島からの最後の強制移住
第2章 祭祀と労働の旧暦ものがたり
一、沖縄の旧暦と暮らし
改暦と琉球処分/占領下の新暦正月推進運動
二、古琉球の祭祀経典
『時双紙』/『砂川双紙』/『トウグユミ』(唐暦)と呼ばれる砂川暦/砂川暦(昭和三三年)を例に/祭祀と干支五行説/五行説による「相性」と「相剋」
三、六十干支に従って決める祭祀と日取帳
ヒューイ・トゥイ・ウヤ(日取りを取る親)/伝承による「カド」と呼ばれる数字/実際の日取りの方法
第3章 池間の祭祀
変わりゆく集落の景観/神役組織
第一節 池間の祭祀構造と類型概念
一、旧正月と新旧神役交代の願い
二、祈願成立の伝承
三、神がかりの歌
四、動物供儀と悪霊祓い
五、死者と生者の儀式
第二節 ユークイの祭祀構造と秘儀性
一、聖なる宇宙空間
二、祭祀前日
三、祭祀当日のユーグムイ
四、 三日目の聖所巡拝
五、祭祀終了後
池間の年間祭祀表(一九八五年度・旧暦)
第4章 佐良浜の祭祀
拝所が点在する海沿いの集落/池間島を親村とする祭祀儀礼集団/佐良浜の神役組織
第一節 佐良浜の祭祀構造と儀礼の手順
一、旧正月と神役交代儀式
二、カカランマが神と対話するオヨシ
三、クライアガイ・ユーイ(位上がり祝い)
第二節 カーニガイ(井戸願い)
一、前日の準備
二、ナナムイでのフツアキニガイ(口開け願い)
三、サバウツガー(鯖沖井戸)
四、アガイヌカー(東の井戸)
五、スイゲンチ(水源地)
第三節 ムズビューイウサギ(麦の収穫感謝儀礼)
一、ムズビューイウサギの準備
二、ンマダリ(神酒)づくり
三、ユーグムイ(夜籠り)
ユーフィニガイ(薄暗い時刻の願い)/アキドゥラニガイ(寅の刻=明け方の願い)/ムイムイ(杜々)の巡拝
佐良浜の年間祭祀表(二〇〇七年度・旧暦)
第5章 祭祀の継承に向けて
一、池間の現状と継承への課題
御嶽の神と介護施設の誕生/祭祀再開への悲願/漁業に欠かせない神願い/外国船によるサンゴ乱獲という新たな課題
二、佐良浜の現状と継承への課題
人頭税に由来する粟の祭祀/粟の栽培を続ける元ツカサンマたち/ツカサンマの品位と神歌を称賛/神歌を公開して伝統を伝える
あとがき
●著者プロフィール
加藤 久子(カトウ ヒサコ)
1937年生まれ。法政大学沖縄文化研究所国内研究員
1998年から約10年、浦添市の小湾字誌編集委員会による『小湾字誌』(三部編)の編集・執筆に関わる。
写真集『よみがえる小湾集落』2003年。小湾戦後記録集『小湾議事録』2005年。本編『小湾字誌』(戦中・戦後編)2008年。
【著書】
『糸満アンマー 海人(うみんちゅ)の妻たちの労働と生活』(おきなわ文庫)ひるぎ社、1990年。『海の狩人 沖縄漁民−糸満ウミンチュの歴史と生活誌』現代書館、2012年(沖縄タイムス出版文化賞正賞受賞)。『海に生きる 島に祈る』ボーダーインク、2021年。
●2023年3月31日発行