• 『忘れられた山原人(やんばるんちゅ)と倭族 ─黒潮に浮かぶ古琉球史と日本古代史の解明』比嘉隆 著

『忘れられた山原人(やんばるんちゅ)と倭族 ─黒潮に浮かぶ古琉球史と日本古代史の解明』比嘉隆 著

ISBN978-4-89982-477-0

2,200円(内税)

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●四六判248ページ
●定価2200円(本体2000円+税)
●比嘉隆 著
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東シナ海は中国・琉球・日本の
人と文化をむすぶ交流の場であった

古琉球時代、海を利用して活発に活動した山原人がいた

地形や生産物、牧場、グスク出土品などから
当時の山原の繁栄を明らかにするとともに
なぜ山原地域や奄美諸島が遅れた地域として
認識されていたのかを考察する。



●「はじめに」より(抜粋)
 琉球王国といわれる以前の沖縄の歴史は、どんなものだったのか。また日本史の「記紀」(『古事記』『日本書紀』)が書かれた以前の歴史はどうだったのか。沖縄島には「元は今帰仁」という言葉が伝わる。沖縄近海から北上する黒潮がある。その黒潮に浮かんだ海人や交易者、派遣された使者、また国を追われた難民などがいた。この黒潮を舞台にした周辺の東アジア・東南アジアの島々を中心に、古琉球や日本古代の歴史を考える。日本史の研究は、いま大きな転換期に直面している。従来の日本史の「常識」や固定観念を打ち破り、新しい視座にたって真実の日本史像を再構築しようとする仕事が、次々に始まっている。このことは古琉球史にも言える。
(中略)
 一九三一年久米村の旧家で発見された『歴代宝案』から、尚巴志によって、那覇を中心に海外交易が大きく展開されたことがわかってきた。海外への使者派遣などについては、仲北山系按司と尚巴志の関係を拙書(『古琉球史論』)で紹介したが、この山原の仲北山系按司たちが沖縄の海をどう対処し活動したかを検証し、尚巴志の海外交易発展につながったかを考えたい。
 これまで「正史」を中心とした歴史観は、伊波普猷のいう山原は、狩猟民族で、交通の便も悪く、三山(『中山世鑑』に記された、一四世紀末から一五世紀初頭の頃の沖縄島を中山・北山・南山という三つの区域分け)でも北山・山原は最も遅れた地域であったと扱われた。
(中略)
 そこには正史にそった中山中心史観がみられ、「元は今帰仁」という歴史認識はなく、古代から続く海洋民族としての交易を中心とした歴史観はみられない。日本本土にみられる「農耕の村から町へ」という歴史観である。伊波普猷の置かれた明治時代の近代国家設立という大きな流れの中では無理からぬことであった。近年では、これまでの歴史研究に対しての見直しが行われているのも事実である。
 これまでの歴史学が全体として日本の社会の歴史の中で、海の果たした役割について、必ずしも十分に認識を深めてこなかったのではないか、そのために、日本の歴史像全体がかなりのゆがみを持つ結果になっている。
(中略)
 このような海域世界の実態を明らかにするには、従来からのもう一つの潮流である「陸の歴史」を見直す必要がある。古琉球史においても「正史」(『中山世鑑』『中山世譜』等)に「陸の歴史」の視点からの記述や中山中心の歴史観がみられ、そしてそのことによって、「記紀」(『古事記』『日本書紀』)と同じように、歴史の呪縛がみられる。史料批判をすることによって、その歴史記述の意図を明らかにしたい。
 最後に、海洋民族と琉球の民の源流として倭族について、その歴史を明らかにする。また倭族と関係すると思われる、日本神話にあらわれる人物や風習など、さらに高天原についても明らかにする。



●目次

はじめに

第一章 山原の海と港
海進と海面後退/山原の地形/本部半島/昔の読谷山/今帰仁への唐船の航行/読谷山の唐船の航行/山原の海に浮かんだ船/本部・今帰仁と宮古/本部・今帰仁の宮古商人の足跡/山原の民の生活/沖縄人の発見した星座

第二章 航海における東シナ海
「ベトナム難民」/文化の伝播/高倉と千木/呉音と漢音/ウナリガミ信仰と船霊信仰/季節風と南島の人々/沖縄諸島にあらわれる星座/海流の影響/航海の安全/港市/海に生きる人々/沖縄の海人

第三章 山原の生産物
沖縄島の塩と生産地/塩と「マース」/塩商人/山原地域の馬の飼育/山原の農業/大唐米/稲作の祭礼/シークヮーサー/鮫皮/海神祭

第四章 琉球弧の交易
琉球の従前からの交易/タカラガイを求めて/交易品としての貝/奄美地域の交易/中国史料にみる琉球弧/古琉球時代の交易

第五章 山原のグスクと出土物
グスクと河川/地方史(誌)にみる交易上の出土物/遺跡の出土物

第六章 仲北山系按司について
仲北山時代のモンゴル帝国/モンゴル帝国史の琉球の登場/仲北山の歴史/仲北山系按司の居城/仲北山系の山原のグスク/山原の五つのグスク/『おもろさうし』にあらわれる中グスク/史料に登場する仲北山系の琉球使者/仲北山系の使者/『明実録』にみられる使者/『歴代法案』の使者

第七章 正史の呪縛
「正史」の問題点/『日本書紀』の呪縛と琉球の「正史」/『日本書紀』の未来の支配/権力と権威のみなもと/王統史として過去の唯一性/過去の支配/書物の歴史の起点/歴史は政治/「正史」の史料批判/北山監守について

第八章 倭族
倭人の源流/前漢の武帝と倭族/倭族の東アジア沿岸地域への移動/三世紀末の倭族/倭人・倭国について/「越」と「倭」/『論衡』にみえる倭人とは/倭人と海人/倭族の世界/「倭国」から「日本」へ/倭族の故郷とニライカナイ信仰

おわりに
参考文献


●著者略歴

比嘉隆(ひが・たかし)
1957年沖縄県生まれ 元高等学校教諭。
名城大学(工学)、慶應義塾大学(文学・歴史)、愛知教育大学大学院修士課程(英語学・英語教育専攻)、佛教大学大学院修士課程(歴史学専攻)を卒業及び修了。浅学非才ながら歴史学の研究として、文献史料のほとんどない古琉球時代の歴史を、文学、民俗学、考古学、言語、自然科学などから「歴史フィールドワーク」として取り組む。
著書『古琉球史論』(弘報印刷出版センター、2022年)、共著『東アジアにおける南島研究―南島史学会創立50周年記念論集』(春風社、2021年)「琉球王権発祥地の一考察―沖縄北部地域を中心として―」。その他論文Problems of Teaching Traditional Grammar in School : with special reference to tense and aspect.2007.

●2025年2月 初版第一刷発行