話題沸騰、沖縄発の『琉球怪談』待望の第二弾!
心の底から響く実話怪談百話の饗宴!
「あの橋のむこうに……さらなる沖縄の怪異が潜んでいる」
沖縄の風土と歴史に根ざした、現代の実話怪談の神髄がここに登場。
沖縄と、全ての内地人を戦慄せしめよ!
前口上
古来より百のあやかしを語ると、とばりの向こうからさらなるあやかしが来ると言われています。さてこれより皆様にご披露するあやかしは、沖縄にまつわる人々が実際体験した、摩訶不思議なのみを収めた現代の百物語、〈琉球怪談〉と申します。
沖縄は、琉球の世とされるからニライカナイの神々をい祖霊神にかれ、独特の世界観、宗教観が混在してきた場所であります。この島々にれるあやかしは「ムン」と呼ばれ、それは定義できない暗黒の存在であり、全てのものの根源でもあります。「ムン」はその姿を様々にして、私たちの世界に侵入してきます。「ムン」は時として人々に襲いかかり、死者の姿になって現れ、サトウキビ畑の向こうから生者に対して手を振るのです。
目次
一つ目の橋 沖縄各地の怪
第一話 ぬーが!
第二話 バス停の人々
第三話 コンビニエンスストア
第四話 トイレはどこですか
第五話 逃げちゃうのね
第六話 平和通りの落とし穴
第七話 見えない階段
第八話 行進する日本兵
第九話 ショートカット
第十話 麦わら帽、飛んだ
第十一話 サトウキビ畑のオジイ
第十二話 雑草も生えない一角
第十三話 埋立 バナナ沼を巡る話 その一
第十四話 病気 バナナ沼を巡る話 その二
第十五話 結婚 バナナ沼を巡る話 その三
第十六話 勾玉 バナナ沼を巡る話 その四
二つ目の橋 奇っ怪な噺
第十七話 四時に来てください
第十八話 偶然の、ある日
第十九話 ずるり、ずるり
第二十話 奥武島の加齢臭
第二十一話 滝から落ちる夢
第二十二話 塀の上の小さなおじさんたち
第二十三話 中央分離帯の小人
第二十四話 後部デッキの旅人
第二十五話 座間味の海坊主
第二十六話 ペア・シーサー
第二十七話 シリンダー
第二十八話 空手キックの末路
第二十九話 シルクタッセルの女
第三十話 さながら薔薇の花が
三つ目の橋 恐るべきパニック
第三十一話 毛むくじゃらの腕
第三十二話 毛むくじゃらの腕、それから
第三十三話 屋上の怪
第三十四話 Fくんの机
第三十五話 ノック返し
第三十六話 ガランガラン
第三十七話 トントントントン
第三十八話 遺物
第三十九話 憑いてきた
第四十話 そして、出て行ったけれど
第四十一話 セピア色 恐怖の修学旅行 その一
第四十二話 閉まらない 恐怖の修学旅行 その二
第四十三話 揺れる 恐怖の修学旅行 その三
四つ目の橋 屋敷に宿りしムン
第四十四話 始まり この家売ります その一
第四十五話 庭の人 この家売ります その二
第四十六話 トイレの女 この家売ります その三
第四十七話 へらどま この家売ります その四
第四十八話 飛び降りる女 Y団地の話 その一
第四十九話 立ち尽くす女 Y団地の話 その二
第五十話 そりゃ大変さ
第五十一話 水の満たされた空間
第五十二話 ウシンチーのオバア
第五十三話 ウシさん
第五十四話 破壊された場所には
第五十五話 逆立ち女霊
第五十六話 シャワーの背後に
第五十七話 開かずの窓
第五十八話 遠い太鼓
五つ目の橋 死者からのメッセージ
第五十九話 パスカルだらけ
第六十話 父の足音
第六十一話 オジイの自転車
第六十二話 コートを着た伯父
第六十三話 ヤーヌバン
第六十四話 ムシヌシラシ
第六十五話 削る音
第六十六話 パーランクー
第六十七話 日曜日のピクニック
第六十八話 連れて行かれる
第六十九話 十年後
第七十話 仔猫の声
第七十一話 交差点のヒトダマ
第七十二話 漢那家の風呂場
第七十三話 手を振るひとたち
第七十四話 黒い人影
六つ目の橋 妖しげなイチムン
第七十五話 ハブが教えてくれたパレード
第七十六話 月夜の龍
第七十七話 墓場の鴉
第七十八話 カエル人間、現わる
第七十九話 ウタキと蝉にまつわる話
第八十話 イモリと士族が台風で
第八十一話 スイとホタル
第八十二話 カーカンロー
第八十三話 アカガンター
第八十四話 秘密基地とキジムナー
第八十五話 今、そこにいるキジムナー
七つ目の橋 沖縄戦の怪異
第八十六話 聳え立つもの
第八十七話 道連れ
第八十八話 智恵のあるひと
第八十九話 沖縄戦のキジムナー
第九十話 結婚しよう
第九十一話 待っている
第九十二話 囁き
第九十三話 ガジュマルの遺念火
第九十四話 軍靴
第九十五話 鎮魂火
第九十六話 すがりつく手 糸数壕譚 その一
第九十七話 写真のひと 糸数壕譚 その二
第九十八話 うちなーぐち 糸数壕譚 その三
第九十九話 訴える声 糸数壕譚 その四
第百話 あんしぇーやー!
後口上
「第六十九話 十年後」より
その麻美さんが十九歳の頃の話である。久しぶりに中城の実家に帰った。
少し早く帰ったので実家には誰もいなかった。そのために先に手を合わせておこうと、麻美さんは仏壇の扉を開け、に火をつけ、目をつぶって手を合わせた。
一息つき、ぼんやりとトートーメーの方を眺めていたその時のこと。
誰かの気配が背後からした。両親が帰って来たのだろうと後ろを向くと、誰もいない。
あれ、気のせいなのかしら?
改めて視線を仏壇に合わせると、そこに、何かが、いたのだという。
仏壇から人間のものとは思えない長さの腕が二本、にょっきりと突き出されていた。麻美さんが驚く間もなく、その腕は凄まじい力で首を絞め始めた。
あまりのことに麻美さんは掴んできた腕を振り解こうとしたが、その腕の握力は相当なもので、いくら引き剥がそうとしても、鋼鉄のようにがっきと首筋を掴んで放そうとしない。
誰か助けて! 麻美さんは意識の中で叫んだが、それは声にならない。
その間にも、得体の知れない二本の腕は、麻美さんを仏壇の中へ引きずり込もうと、確実に、ちょっとずつ、ちょっとずつ、引っ張り始めた。
ダメだ、このままでは連れて行かれる! 麻美さんは心の中で悲鳴を上げながら、どこの誰とも分からない存在に対して、助けを求めた。
と、その時に、仏壇からもう二本の新たな腕がにょっきりと現れた……つづく……
小原猛 こはら・たけし
昭和四十三年京都生まれ。フリーカメラマン/フリーライター。及び古本屋「ダムダムブックス」として活動中。沖縄の怪談実話を集めた『琉球怪談 闇と癒しの百物語』(ボーダーインク)でデビュー。現在、琉球新報の小中学生新聞『りゅうPON!』にて「琉球怪談百物語・ほんとうにあった怖い話」を連載中。得意フィールドは怪談・妖怪・ウタキなど。
2012年1月発行