しまくとぅばの課外授業 琉球語の歴史を眺める
石崎博志
四六判 216頁
北谷はなぜ「ちゃたん」と読むのか
保栄茂はなぜ「ビン」と読むのか
沖縄の言葉〈しまくとぅば〉に歴史あり。
本書は沖縄で使われているしまくとぅばの現在と過去、そして未来について考えたものです。
中国語史、琉球語史に携わる研究者が、内容の妥当性を損なわないよう、
わかり易く、沖縄の言葉の変遷の諸問題をコラム形式でまとめました。
気鋭の言語学者による、斬新なしまくとぅば茶飲み話。
●目次
はじめに 「しまくとぅば」の現在、過去、未来
保栄茂はなぜ「ビン」と読むのか
二つの同心円
最古の琉球語資料
琉球語を記した中国資料
『琉球訳』に記された地名について
地名における琉球語の変化
保栄茂はなぜ「ビン」と読むのか
北谷はなぜ「チャタン」と読むのか
波平はなぜ「ハンジャ」と読むのか
具志頭はなぜ「グシチャン」と読むのか
地名と漢字の関係
漢字と琉球語の世界
言語における固有の要素と外来の要素
現代琉球語における漢字の読み方
漢字の発音をめぐる琉球語と日本語のズレ
琉球漢字音
琉球語のなかの漢語
中国語から直接借用された漢語1
中国語から直接借用された漢語2
フィンプンは「屏風」なのか?
さんぴん茶について
外国から観た琉球語
琉球における書き言葉
漢文の素読と琉球王国の共通語
玉音放送の言葉
琉球で中国語を学ぶ
新発見の琉球官話資料
琉球語を記したフランス語資料
もう一つのハングル資料
『琉英国語』という名の中国語資料
琉球語の過去と現在、そして未来
方言札は琉球語を消滅させたのか
方言札をめぐる男女差
ヒーローにもっと琉球語を
歴史ドラマと琉球語
舞台と観客の言葉
琉球語はどう表記すればいいか
資源としてのしまくとぅば
未来の琉球語の担い手
失われた音を求めて
日琉同祖論と言語
ウチナーヤマトグチの基層
国名と言語名 (言語か方言か1)
政治の話と言葉の話 (言語か方言か2)
言葉に歴史あり
琉球語の公用語化とアイデンティティ
進化論と言語
授業とお稽古のあいだに
専門家の意見もいろいろ
広まる俗説
こんにちは、よろしく、そしてありがとう
避けたい話題と文化
よい外国語の使い手
観光地はサンエー
若者は本当に内向きなのか
言語間の不平等
美しい言葉
無意識の差別感情
偉人と罪人とボク
国語科のなかの中国語
大学というところ
趣味の延長と研究
文系学問における「再現性」
授業とお稽古
楽しむことを覚える
あとがき
●〈はじめに 「しまくとぅば」の現在、過去、未来〉より
本書は沖縄で使われている言葉の現在と過去、そして未来について考えたものである。「課外授業」と称しているように、「しまくとぅば」、つまり琉球語がどのような言葉なのかを、従来とは少し違った視点で、主に外側から眺めてみた。
まずは著者の自己紹介をしよう。ボクは沖縄に住んでやがて十九年になる。生まれは石川県の金沢だが、実家で過ごしたよりも長く沖縄に住んだことになる。もともとの専門は中国語の歴史であり、今も続けている。最初は琉球王国時代に学ばれていた中国語である官話や、琉球語を記した中国資料に興味をもっていたが、琉球語そのものに興味を持つようになった。
その大きなきっかけとなったのは、琉球古典音楽の三線や笛を始めたことである。安冨祖流のかつてのありさまを彷彿とさせるお稽古の方法や、工工四の歌詞と実際の歌のへだたりは、ボクの探求心を大いに刺激した。そして三線や笛を通して、沖縄の様々な年代の方とお話しする機会を得て、沖縄の言語状況についてたくさんのことを教えて頂いた。島言葉(しまくとぅば)で話をされていた時は、聞き取れない言葉もとびだし、そのたびに質問をしたが、いつも気さくに答えて下さった。こうした地元の方々とのやりとりが本書の内容につながっている。
●著者プロフィール
石崎博志(イシザキヒロシ)
一九七〇年石川県金沢市生まれ。東京都立大学人文科学研究科博士課程中退。復旦大学(中国)国費留学、国立高等研究院(École Pratique des Hautes Études, フランス)客員研究員。博士(文化交渉学 関西大学)。一九九七年より沖縄在住。琉球大学法文学部准教授。専門は中国語史、琉球語史。単著に石崎博志著『琉球語史研究』(好文出版、二〇一五年)、共編に遠藤光暁・石崎博志編著『現代漢語的歴史研究』(浙江大学出版社、二〇一五年)。二〇一二年第十六回窪徳忠琉中関係奨励賞、二〇一三年第三五回沖縄文化協会賞(金城朝永賞)受賞。
●2015年9月初版第一刷発行