• 『おきなわ福祉の旅  ボーダーブックス7 それぞれの現場・地域での出会いの中で』加藤彰彦著

『おきなわ福祉の旅 ボーダーブックス7 それぞれの現場・地域での出会いの中で』加藤彰彦著

4-89982-077-1

1,100円(内税)

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加藤彰彦 著 四六判 119 頁

それぞれの現場・地域での出会いの中で

沖縄の福祉と地域の現状、そして新たな取り組みなどを綴った連載コラム集。

加藤彰彦(かとうあきひこ)
1941年、東京都生まれ。
横浜国立大学卒。小学校教諭、四年間の日本列島放浪の後、横浜市民生局職員として日雇い労働者の生活相談所「寿生活館」や児童相談所に勤務。
1991年から横浜市立大学教授(社会福祉論)、2002年から沖縄大学教授(児童福祉論)。実生活からの視点にこだわり、日雇い労働者の克明な生活史を記録するなど「野本三吉」の名でノンフィクション著書多数。那覇市在住。
著書『子ども観の戦後史』(現代書館)、『生きる場からの発想』『近代日本児童生活誌史序説』(社会評論社)、『野本三吉ノンフィクション選集(全6巻)』(新宿書房)、『社会福祉事業の歴史』(明石書店)、『福祉における危機管理』(有斐閣)など。


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【目次】
はじめに 魂の源郷への旅

おきなわ福祉の旅

平和と福祉をつなぐ「土の宿」/夏休みに現場実習/孤独な少年の実像
家族再生の切り札/福祉オンブズマン導入/愛楽園で自分と向き合う学生
「戦後何年」刻む活動/増える独居老人の孤独死/中高年の組踊に感動の渦
地域で子育て支援/張水学園の改築実現を願う/島ぐるみ里親活動の鳩間島
施設と家庭をつなぐ「中間施設」を/画期的なオンブズマン発足
地域は大きな「子育て学校」/実習体験を真剣に報告/自ら不登校体験語る
島の相互扶助の精神/ハンセン病正しく理解を/六○、七○代はまだ青年
島にも必要な児童施設/戦災孤児らの自立支援/多重債務で苦しむ親子
福祉オンブズマン活動開始/師走の町にホームレス/学ぶことは楽しい
地域密着の共同店/社会福祉士になること/家族を与える児童相談所
現実に触れる本質を知る/福祉の立場で戦争に反対/農業盛ん漁業条件よし
「人のため役立つ仕事」/実習生で受け入れで苦労/島で鍛えられる子どもら
「心の痛み」が活動の基本/素朴で魅力ある渡名喜島/住民主役の町づくり
公害と向き合った水俣市/チャイルドライン設立を/聴覚障害のある新入生
島は人と自然の共同体/母子世帯に集中する生活苦/世界長寿宣言から10年
イラクに寄せる熱い思い/福祉オンブズマン活動半年
高校で増える福祉授業/多忙すぎる児童相談所/平和への思い新たに

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スタッフリレーブックレビュー byキナキナ

ボーダーブックス7
『おきなわ福祉の旅』 加藤彰彦著

 1995年、私は琉球大学で社会福祉学というものを専攻していた。時まさに「就職氷河期」時代。介護保険制度の導入が取りざたされていて、介護職への就職が期待されていた頃だ。

そんな中、大学の同期たちと「なぜ福祉を専攻したのか」というような話をしたことがある。

 子ども時代の不幸な体験を経て、同じ思いをしている子どもたちのためになりたい、という人。難聴を持っていて、そのために法律や制度の勉強がどうしても必要だという人。家に要介護のお年寄りが2人いるので、介護や福祉の専門知識が欲しい人……。

 学生らしいナイーブさはもちろんあったが、今振り返ってみると、皆それなりの切実感が感じられたように思う。

 と、長い前ふりがあって、取り上げるのは『おきなわ福祉の旅』である。著者は沖縄大学で教授を務める加藤彰彦さん。「野本三吉」のペンネームで、社会問題や福祉問題について多数著していることでも知られる。

 本書は、2002年から沖縄で暮らし始めた著者が、沖縄の福祉事情についてつづる49本のコラム集だ。短くまとめられたやさしい文章だが、著者が現場を歩き見た沖縄のすがたは、
時にドキッとするぐらい厳しい。

 例えば、沖縄市で2002年、介護保険を受けていない独居老人への聞き取り調査をしたところ、なにがしかの病をわずらっている人は10人に6人を超えた。別の調査では、緊急時の連絡手段や頼れる人がいない人は、832人もいたそうだ。

 また、県内全世帯に母子家庭が占める割合と、児童相談所に寄せられる非行相談も、全国平均の2倍以上だという。

 これまでは地域がいくばくかは担っていた、子どもや母子、高齢者の居場所という役割が、まちの都市化によって「福祉」という制度に切り渡すことになった現在。さらに、早婚、子だくさん、離婚率の高さ、所得水準、高齢者数、離島県であることといった、沖縄社会の特色はそのまま、とりもなおさず福祉の問題点となる。

 私の大学の同級生たちではないが、問題はとても身近で、切実だ。 

 そういうことを考える時に、いつも感じることがある。沖縄社会にはもはや、「余裕」「余白」が少なくなってしまったのかもしれない。どんなに腹が減っていても、同じく飢えている人に食べ物を分けなければ自分の胸が痛む、という考えがあったという。

 著者は本文でこう書いている。「福祉文化とは、他者とともに、生きる仲間として生きたいという衝動であり、やさしさの回帰である」。それは沖縄でいう「肝苦りさん」(ちむぐりさん)という概念なのかもしれないな、と思う。

 誰かの行き場が必ずどこかにあるという社会であるというのは、簡単なようでとても難しい。どんな結論も出すことはできないけど、それでもやっぱり息苦しい社会は嫌だし、やっぱり幸せに生きて死にたいなぁ、と思ったりする。私もそれなりに年を重ねてきて、いろいろと切実になってきたせいかもしれないけど。
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